昨年8月、北海道深川市で父親を刺殺したとして逮捕された工藤正嗣被告の裁判員裁判が行われ、懲役11年の刑が言い渡されました。工藤被告は軽度の知的障害や発達障害から「生きづらさ」を抱えており、自らの人生がうまくいかなかった理由は全て父親のせいだと思い込んでの犯行だったとのことです。被告が裁判の最後に発した「遺族の方に申し訳ない」というまるで他人事のようなコメントの理由を考察してみました。
工藤正嗣被告は思い込みが激しく、思い通りにならないと暴力も
工藤正嗣被告は学校を卒業後、仕事を転々としました。父親に紹介されて働き始めたガソリンスタンドでは危険物取扱の資格がなかったことで、「勝手に同僚に見下されている」と思い込んで2ヶ月で仕事を辞めています。
そして妹とけんかをして暴力を振るった後、母親と妹は家を出ていったため父親と一緒に暮らしていました。
工藤正嗣被告は無職であり、「仕事がないのは、ガソリンスタンドの仕事が無くなったせい」であり、それは危険物取扱の資格を「簡単なレベルから取ってはどうか?」とアドバイスした父親のせいでだと固く思い込んでいたようです。
このエピソードを見るだけでも非常に他責思考(責任は自分ではなく他人にある)の持ち主であると言えるでしょう。
工藤正嗣被告は客観的視点を欠く広汎性発達障害の診断
相手の感情を勝手にこうだと思い込んだり、他責思考であることはかつて自閉症やアスペルガー症候群と呼ばれていた広汎性発達障害というものの特徴の一つです。
工藤正嗣被告は事件後の鑑定で軽度知的障害と広汎性発達障害と診断されています。工藤被告にこのような障害があったことは事件前にはわからなかったことでした。
障害からコミュニケーションがうまく取れず、他人の言動を勝手に思い込んでストレスの原因になりうるものの、公判では「父親の殺害は障害からではなく、本人の性格によるもの」とされました。
父親の深い愛情に応えることができなかった工藤正嗣被告は障がいのせいか?
父親の隆俊さん(61)は正嗣被告から右腕や腹など18ヶ所をメッタ刺しにして殺害しました。
そんな状況であるにも関わらず、隆俊さんは最期に「正嗣、愛してる」と言い残したといいます。
事件前は発達障害であることを知らなかった父・隆俊さん。発達障害は他人の気持ちがわからないことも特徴の一つとして挙げられます。
工藤正嗣被告が公判の最後に言った「遺族の方に申し訳ない」という発言は、他人事のように聞こえます。普通は母と妹に申し訳ないと言うはずですが、「遺族」というとまるで被害者が赤の他人であるような印象を与えます。
この発言を見ても広汎性発達障害の一端がみて取れるようです。
もう少し早く障害のことがわかっていれば正嗣被告もご家族も打つ手はあったのかもしれないと思うと、残念でなりません。